甲状腺ホルモンと不妊
甲状腺ホルモンと不妊
不妊治療におけるスクリーニング検査において、ほとんどの施設が甲状腺機能の血液検査を行っています。それは、甲状腺機能の低下や亢進(甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの値の異常)がいずれの場合にも、不妊や流産などと関わっていることが指摘されているからです。甲状腺と不妊の因果関係を知るためには、甲状腺ホルモンの分泌調節や下垂体から分泌されるプロラクチン(PRL)というホルモンついて知ることが大切です。
PRLは、着床や妊娠維持に必要なホルモンで、以前より血中PRL値が高いと(高PRL血症)不妊の原因になることが知られていました(不育症の約15%が、高PRL血症と言われています)。甲状腺機能が低下すると脳の視床下部という場所から下垂体-甲状腺系を刺激するTRHというホルモンが分泌されますが、このTRHには下垂体のPRL分泌を刺激する作用もあるため、PRL濃度が上昇し(高PRL血症)、不妊の原因となります。甲状腺ホルモンは月経周期にも影響するため甲状腺機能が亢進しても月経異常などから不妊症に至ることがあります。甲状腺機能亢進症の代表であるバセドウ病は20~30歳代の女性に多い為、気になる場合はお気軽に受診ください。
バセドウ病を放置すると排卵障害を起こすことで不妊の原因となり得ますが、バセドウ病があっても甲状腺機能が正常にコントロールされていれば、妊娠率はほとんど低下しないと言われています。甲状腺ホルモンが過剰な状態での妊娠は流産や早産の頻度を高める為、甲状腺ホルモンが安定した状態での妊娠が望まれます。バセドウ病治療薬の中には非常に稀ですが妊娠初期における奇形の報告があり、妊娠をご希望の場合には適切な薬剤への早めの変更が必要です(ガイドラインでは妊娠5週0日から9週6日までのチアマゾール(MMI:メルカゾール)の服用を避ける、つまり少なくともこの期間は他薬へ切り替える、ことを推奨しています)。より安全な妊娠・出産のために、まずは甲状腺機能を安定した状態にしておくことが大切です。
不妊や流産の原因のひとつに甲状腺機能低下症があります。この病気の代表である橋本病は自覚症状がないことも多く、あったとしてもちょっとした体の不調だととらえ、甲状腺の病気であることに気付きにくく、詳しい検査にまで至らない傾向があります。が、日常生活では気にならない程度の甲状腺機能低下症(正常下限値<TSH値<2.5μIU/mL)でも妊娠率の低下や流産率が上昇する可能性が指摘されています。甲状腺刺激ホルモン(TSH)値が高めである場合には甲状腺ホルモン製剤を内服で補う治療を検討します。ただし、甲状腺機能低下症の治療をきちんと行っても妊娠しない場合は不妊の原因が別にある可能性が高く、婦人科での専門的検査や治療が必要となります。